国運の分岐点中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか

アトキンソン氏の今回の新著では、中小企業の優遇政策をやめ、企業規模の拡大をつうじて生産性を高めることを提言している。経済のデジタル化とグローバル化がすすむなか、IT関連等設備投資余力のない小規模事業主の比率が高いことが働き方改革や女性活躍を阻んでいるし、日本経済の生産性向上に負の影響を及すとの指摘は実感を持って受け止める人が多いだろう。また、少子高齢化・人口減少によって慢性的な人手不足に苦しんでいる小規模事業主自身にとっても、世代交代などを契機とした廃業はいまや現実的な選択肢となりつつある。事業継続支援を中心とした現在の中小企業政策を、集約統合型に変更し、国内企業の規模の拡大を図るよう中小企業政策の舵を大きくきることは、今後の日本の産業構造にとって非常に重要な決断となる。震災を持ち出すまでもなく、政府として取り組むべき課題であり、技術の海外流出に歯止めをかける観点からも是非取り組んでもらいたい。そのうえで、本著では最低賃金の引き上げによってこれを実現すべきとしているが、現実的には集約統合を促進する諸処の制度も必要になってくるだろう。本著で目指している中小企業改革をどのように実現するか（How）がより重要である。著者には是非、次作で具体的な各論も提言してもらいたい。なお、第8章の震災関連のシナリオは中小企業政策にとどまらない広範かつ複雑な議論を要するもので、別途独立して多方面から議論するに値すると思われる。また、第2次大戦後、米国がマーシャルプランや国際金融機関による支援を通じて欧州や日本を自国勢力圏につなぎとめた経緯にも触れたほうが史実としてフェアな記述となっただろう。